隠し剣鬼の爪は、山田洋二監督作品。山田監督の作品は心にぐっとくる作品が多いので好きなのですが、これも期待を裏切らないいい作品でした。片桐役の永瀬正敏が本当にいい味を出してます。
そして、相手役のきえ役の松たかこの清楚なこと!たちふるまいがとても自然できれい。

やさしさ、きだてのよさというのがそのまんまにじみ出てる気がして、これは彼女の演技というより彼女自身がもってるものが表にでているように思えてしかたありません。

片桐は、侍らしく生きようとする、誠実な男。そしてそんな彼と、彼女の身分違いの恋。
”身分とは何ですか?”という問いに、彼女が”身分とは何でしょう、考えたこともない”と、こたえていたのが印象的でした。

お弁当を持って片桐ときえが二人で海にいくシーンがあるんですが、それがなんていうかすっごく柔らかいんですね。映画の画面が柔らかいっていうか伝わってくる空気がやわらかいっていうか・・。景色としての二人の世界がとても優しくにじみ出てきてる感じ。おいしそうにお弁当をたべる二人の姿をみていると、こちらもとてもやすらぎます。

きえは片桐の家の女中なので、彼に恋心をつげることができないのですが、それでも夜中一生懸命勉強してる姿をみてるだけで幸せとか、そばにいたいという女心、言葉にできない愛の告白が感じられて本当にせつない。

それにしても侍の歩き方、走り方ってあるんですね。普段からあまりそういうのを意識して考えたことなかったですが、今、自分たちが普通だと思ってる歩き方、走り方は元々西洋のものなんですね。映画の中で、幕末のお侍さんたちが西洋の歩き方、走り方がなかなか覚えられなくてこまってる姿をみて、なるほどなーそういうものか、とおもしろかったです。

そういう田舎の侍の彼等に、一生懸命西洋の文化をおしえようとする先生役が松田洋次でしたが、恐ろしいほどのはまり役で本当に笑えました。脇役だけれど、重要な脇役。こういう脇役こそ、しっかりこなせる人がやらないと映画にメリハリがつかなくなるんでしょうね。

そして剣づかいが見事だなあ、美しいなあ、とおもったのは、片桐の恩師戸田先生役の田中さんという役者さん。キレが違うな〜というくらいうつくしかったのですが、舞踏家なんだそうです。
戸田先生が片桐に伝授するのが秘剣といわれる”隠し剣鬼の爪”なわけですが、最後に敵討ちとして使われます。こんな剣もあるのか・・というくらい早業!!

最後、”侍として、鉄砲で死ぬのは悔しい”というセリフがあるのですが、これが侍の心なのでしょうかね。正々堂々と死にたい、ということなんでしょうか。
切腹が美しいとは思わないけれど、それが侍として生きた証になるのかな。

侍としての生きかたは、今の時代からしたらばからしくうつる生き方なのかもしれないけれど、でもやはりかっこいいなと思います。馬鹿みたいに誠実なのは、今の時代では美徳にもならないのかもしれないけれど、男気があって私はすごく素敵だと思いますね。
そしてきえのような奥ゆかしさを感じる女性、こういう女性になりたいものです。
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