脚本を発表して70年、人民劇院が演出して50年を記念しての企画で再演された今回の雷雨。
私がはじめて雷雨をみたのは89年の作品だったのだけれど、その作品がパネルで劇場に紹介されていてア〜そうだった、これだったなあ・・となんだかとても感慨深かったです。あの時はたしか学校の催しでバスに乗ってみにきたのでした。あの時の感動は忘れられない。あれから何回見たでしょう。かなりみてるけれどいつみても心に残ります。でも配役的にいったら89年が一番よかった。四鳳も可愛かったし、すべての配役がしっくりきていたという気がします。

私はどうも1920年30年代の中国が好きらしい。当時の中国の文化人のレベルは、その時の日本よりもっと研ぎ澄まされていただろうし、文化意識が卓越していたように感じます。
この劇も1929年の中国が舞台。貧しい身分の四鳳は、実業家周朴園の家の使用人。しかしその家の長男周萍と恋仲になってしまう・・という身分違いの恋に苦しむ悲劇物と思わせるけれども、実際はもう本当にこれ以上の不幸はないという位のまっ暗な展開。周家の二人の息子のうち、下の子は後妻の子。でも周萍と義理の母である後妻の周繁奇は、ずっと父親に顔向けできない関係にあった。
父親への反抗と若気の至りでおこしてしまった関係に心を痛める周萍は、四鳳との愛で生き直そうとする。そこへ、四鳳の母親が故郷から四鳳に会いに来る・・・。

なんと四鳳の母親は、周朴園と昔身分違いの恋で子供を1人もうけるが、家柄のつりあいの為金持ちの女性と結婚する事になった周朴園の元を去り、別の人と結婚していた。そして周家の上の息子周萍の母親であったのだから、これこそまさに運命のいたずら!

とにかく複雑な劇で、四鳳の母親と再婚した夫が、出稼ぎで娘四鳳をつれて働く事になった先が不幸にも周家という皮肉な運命。セットは木造の古い洋館をイメージしてて、時代を感じさせる。外は題名どおりの雷雨。物語の重要なポイントになる、嵐できれた庭の電線の事が何度か主人と使用人との会話ででてきて、そのたびドキドキする。

なんとか義理の息子周萍の心を取り戻したい後妻の周繁奇は、四鳳にいなくなってほしい。下の息子も、四鳳のことを好きなのを利用して、両家にとってよくないと四鳳の母親に話し、四鳳を母親と一緒に母親の住む街に帰そうとする。母親の言うことをきき、一度は周萍と別れ故郷に帰ろうとする四鳳だが、やはり周萍への気持ちを捨てきれない。義理の母の狂うほどの自分への想いに、自分自身の過ちの結果とはいえ、彼女の嘆きにいたたまれなくなった周萍は、家を離れようとする。そんな周萍に連れて行って欲しいと頼む四鳳。二人が駆け落ちしようとするまさにその時、クライマックスで両家の全員が周宅に集ってしまう。

そして思いもよらないところでつながっていくすべての事実が明るみに出て・・・・・・。 クライマックスは本当に、どうしてこんな事に・・・と信じられないくらいの展開になりますが、不幸がおこる時というのは、不幸が不幸をよんでいろんなことが重なっていってしまうのでしょうね。
最後、声にならない笑い声をあげるかのような表情で、呆然とたたずむ後妻の周繁奇の姿で幕はとじられます。

当時の封建社会における女性の悲劇をとことんまで追及して描いた作品。
何も知らず健気に生きようとした四鳳も可愛そうですが、時代の犠牲者となった四鳳の母親、そして後妻の周繁奇も本当に不幸。そういう形でしか女性が生きられなかった時代でもあるのですよね。
丸々3時間。長いけれど非常に見ごたえのある作品。時がたっても色あせない物語です。
←89年の時の”雷雨”の様子。
2004年版”雷雨”→
趣味の道楽へ