これは、北京人民芸術劇院の話劇(お芝居)で、任鳴 監督の作品。
主演は、日本でもNHKドラマ”大地の子”で陸一心の養父役として有名な朱旭。
あとは、僕存マも準主役級で出演していたのだけれど、彼の役はダブルキャストで、私が見に行ったときは、別の人の出演でした。

非常時期における、伝統住宅四合院に暮らす北京の人々のそれぞれの思いや、生活を描いた作品というあらすじだったので、私はてっきり戦時中とか、そういう時代の北京の人々の暮らしぶりを描いた作品なのかと思ってました。
だから、当時の北京の四合院の生活を、どういう風に舞台で再現するのかな〜と楽しみにいったのですが、なんてことはない。非常時期っていうのは”SARS”の時のことでありました。

朱旭演じる”老楊頭”ら家族と、他の何世帯かが一緒に一つの四合院(北京の伝統住宅で中庭を囲んで四つの建物がある造り)にすんでいるところから話は始まりますが、同じ四合院に住んでた
人が発熱して病院に連れて行かれ、その人がSARSと判断された為、四合院のすべての人が隔離されてしまいます。そんな中、老楊頭の娘婿である譚天が広州からひょっこりもどってきて、老楊頭の娘であり譚天の妻の秀娟と、彼らの娘楽楽に再会する事に。

譚天と秀娟は離婚寸前で、別れて暮らしてましたが、譚天は広州でSARSにかかり、治療に成功したものの居場所がなくて北京に戻ってきます。そしてその事実を周りにずっと隠していて・・・という感じで、お話は老楊頭一家を中心に、四合院に住んでいる人達の心の葛藤を描いていきます。
一番はやはり家族愛。秀娟は、看護婦なんだけれど、老楊頭が病院へ非常時勤務申請を出さなかったことで、彼女は病院に働きにいけず、しかも隔離されてしまう事になるわけですが、とにかく秀娟を病院という一番危ない第一線にいかすわけにはいかないと、涙ながらに語る老楊頭の姿は涙なしにみることはできません。

親の自分への圧力から逃げ出し、たまたまこの四合院の空き部屋に居候していた男の子は、それでもこういう非常事態に自分を心配してくれるのは親だけだということを悟り、多大な期待ばかりをかけすぎていたと謝る両親と和解していきます。
そして、一切の自由がなく不便な生活をしいたげられても、遠く離れていた父親と一緒に生活でき、そして家族みんなで一緒にいられるこの隔離の時間は、幸せだと言い切る楽楽。
10日間の隔離の時間が過ぎて、それぞれ職場に戻ったり、学校にいったりして彼らの四合院にも
日常が戻り、残されたのは老楊頭と向かいに住む洪大媽の二人だけ。

”隔離されていたときは不便で自由もなくみんなでいがみあったりしたけれど、でも大勢が一緒に暮らす空間は賑やかで活気があった。いまこうして日常に戻ってみると、誰もいなくなってなんだか寂しい限り。隔離もまたいいわねえ・・”

なんて笑いあってお芝居は終わっていきます。それにしてもすごいなと思ったのは、SARSなんてまだ記憶も新しく、原因がつきとめられたわけでもないのに、このお芝居をみてる人の間では、完全に
過去の話。マスクをつけて距離を保って話をしたり、消毒のスプレーをもって歩いたり、真っ白の完全防備服をきた人たちの登場や、隔離テープが門の外に張られたり、中にいる人々に食料を届けたりなんていう場面が出るたびに、みな大笑いで拍手喝采。そんなこともあったわねーなんて軽く流せるほどまだ時間はすぎてないはずなのに、笑い話にしてしまえるってすごいです。
そして、朱旭の圧倒的な存在感には本当に脱帽。彼の存在そのものが感動で彼が出てくる場面で私は何度泣いた事か!

最後のカーテンコール、普通こっちの人っていうのはドライなのか、劇が終わるとあっさり帰る。いままでいろんなお芝居をみてきたけれどほとんどがそんな感じ。でもやはり朱旭の存在は大きいですね!
カーテンコールではその場にいた全員が総立ちで拍手!そんなのみたことなかったから、もうそれだけで鳥肌たって、勝手に感動して拍手しながらボロボロ泣いてる私でした(笑)
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